Design and Building Practitioners Act 2020 (NSW) 法に基づき取締役が個人責任を負うのはどのような場合か
礼子・レノルズ · 2026年8月7日
ニューサウスウェールズ州最高裁判所は、Strata Plan 92183 v Samdora Pty Ltd [2026] NSWSC 406 において、Design and Building Practitioners Act 2020 (NSW)(DBP法)の施行以来、実務上大きな関心を集めてきた論点の一つ、「建設会社やデベロッパーの取締役が、欠陥工事について個人的な責任を負うのはどのような場合か」について重要な指針を示しました。
本判決は、取締役という肩書だけで責任が認められるわけではなく、実際に建設工事へどのように関与していたかが重要な判断要素となることを明確にしました。
なぜこの判決が重要なのか
DBP法第37条では、「建設工事(construction work)」を行う者は、建物の欠陥又は建設工事に起因する欠陥によって生じる経済的損失を回避するための法定の注意義務(statutory duty of care)を負うと定められています。さらに、DBP法第36条では、「建設工事」を行う者とは、実際に建築作業を行う者だけを意味するものではありません。
例えば、以下のような役割を担っていた者も、「建設工事を行った者」に該当する可能性があります。
- 建設工事を監督した者
- 建設工事を調整した者
- プロジェクトマネジメントを行った者
- その他、工事の遂行について実質的な支配権(substantive control)を有していた者
このように「建設工事」の定義が広く定められていることから、近年では、建設会社やデベロッパーだけでなく、その取締役個人に対してもDBP法に基づく請求が提起されるケースが増えています。
事案の概要
本件は、NSW州のMangertonに所在するタウンハウスに生じた建築上の欠陥を巡る事案です。管理組合(Owners Corporation)は、建設会社およびデベロッパーに加え、それぞれの取締役に対しても訴訟を提起し、DBP法第37条に基づく注意義務に違反したと主張しました。もっとも、裁判所は、両取締役について異なる結論に至りました。
デベロッパーの取締役に責任が認められなかった理由
裁判所は、デベロッパーの取締役について、建設工事への関与は極めて限定的であったと認定しました。例えば、現場検査に時折立ち会うことはあったものの、それはあくまで付随的な関与に過ぎませんでした。
裁判所は、この取締役について、
- 継続的に工事を監督していたこと
- 工事を調整していたこと
- プロジェクトマネジメントを行っていたこと
- 工事に対して実質的な支配権を有していたこと
又は、上記のような役割を担うために雇用されていたことを示す十分な証拠は存在しないと判断しました。
その結果、この取締役はDBP法上の「建設工事を行った者」には該当せず、管理組合の請求は退けられました。
建設会社の取締役に責任が認められた理由
これに対し、建設会社の取締役については事情が異なりました。
同取締役は建設会社の指名監督者(Nominated Supervisor)であり、建設工事を監督していたことについて当事者間に争いはありませんでした。
そのため裁判所は、この取締役がDBP法上の注意義務を負うことを前提に、その義務に違反したかどうかを検討しました。同検討をする上で裁判所は、欠陥を一括して判断するのではなく、個々の欠陥ごとに証拠を精査しました。
その結果、一部の欠陥については、取締役が適切に現場を監督し、定期的な点検・確認を行っていれば容易に発見できたはずであるとして、注意義務違反が認められましたが、その他の欠陥については、仮に適切な監督を行っていたとしても発見できたとは認められないとして、これらについては取締役の責任は否定されました。
実務上のポイント
本判決から得られる重要な実務上の示唆は次のとおりです。
- 建設会社やデベロッパーの取締役であるというだけで、DBP法上の責任を負うわけではありません。
- 裁判所は、役職名ではなく、その取締役が実際にどのような責任・業務を行っていたか、また建設工事にどの程度関与していたかを重視します。
- Home Building Act 1989 (NSW) における指名監督者(Nominated Supervisor)や、DBP法におけるBuilding Practitioner Nomineeなど、法令上の監督責任を担う立場にある者については、その職務内容から注意義務が認められる可能性が高いと考えられます。
- 一方で、財務のみを担当する最高財務責任者(CFO)や、契約締結前の積算・見積業務のみを担当するマネージャーなど、現場業務に直接関与していない者については、実際に欠陥工事へ実質的に関与していたことを示す具体的な証拠がない限り、責任が認められる可能性は低いと考えられます。
まとめ
本判決は、DBP法に基づく取締役の個人責任は、「取締役であること」ではなく、「実際に何をしていたのか」によって判断されることを改めて示した重要な判例です。そのため、DBP法に基づく請求を提起する場合も、これを防御する場合も、取締役の日常的な業務内容、現場への関与の程度、意思決定権限、監督責任の有無などを裏付ける具体的な証拠が、極めて重要となります。もっとも、本判決は個別事案における事実認定に基づく第一審判決であり、これによってDBP法における役員等の責任範囲に関する法理が最終的に確立されたものと理解することは適切ではありません。今後、控訴審における判断や他の裁判例の蓄積により、その解釈が発展又は変更される可能性も十分に考えられます。そのため、現時点では、本判決はDBP法の適用範囲を考える上で重要な指針ではあるものの、将来にわたり確立した法理として扱うのではなく、今後の判例の動向を注視する必要があります。
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礼子・レノルズ
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