主な取り扱い分野
Professionals
コラム
MORE >
紛争解決・訴訟
Q: 私は市内の有名レストランでウェイターをしています。昨日、お客様がオーダーしたワインのボトルを誤って割ってしまいました。それを見た店のソムリエが私の胸ぐらをつかみ、「お前、このワインいくらだと思ってるんだ?弁償しろ、弁償しないならばクビだ!」といわれました。ワインは年代物の、ペンフォールズのグランジというワインで、店では$2,500で出しているものです。私は店に$2,500払わなければいけないのでしょうか?また、胸ぐらをつかまれた拍子に床に落ちた私のメガネをそのソムリエが踏みつけて破損させてしまいました。恐らく修理はもう出来ないので、買い替える必要があります。 A: Employee Liability Act(NSW)という法律の第3条等により、従業員の過失で雇用主が被った損失を、従業員に弁償させるのは原則的に違法です。但し、これには例外もあり、Employee Liability Actの第5(a)項では、「そうしたmisconductがserious and wilful (重大で意図的)なものであった場合」には従業員に対し損失補填・損害賠償請求をすることが可能となります。しかし雇用主がこの例外の恩恵を受けるためには、「その従業員は、損失が生じることを知りつつ自主的にその行為をおこなった」という事を立証しなければなりません。よって、現実的にはこの立証の義務があるため 、例外の適用は難しいです。本件に関して言えば、「誤ってワインボトルを割ってしまった」のであれば、意図的な要素がないため、弁償する義務はありません。では雇用主として、何もできないかというとそうでもありません。もし明らかに従業員の不注意によりそのような損害を被ったのであれば、それは従業員のmisconductとして、warning letterの発行や、場合によっては減給の対象になりえます。(ただし、合法的な減給には雇用契約上の権限が必要なので注意が必要。)また、ワインボトルを割ったことを理由にあなたを即時解雇するのは不当解雇に当たる可能性があります。仮に「そのワインは大変高価であり、取り扱いについては十分注意し、破損させるようなことがあれば、損害賠償をしてもらい、かつ、即解雇する」等と事前に伝えられていた場合には、即時の解雇は有効になる可能性があります。しかしながら、上述の第3条により、損害賠償を求める契約条項は無効です。 一方、あなたのメガネの破損は、従業員であるソムリエの業務中の不法行為により行われたものであると考えられますので、店に賠償を求めることが出来ます。店としては、上述の例外事項にしたがって、ソムリエの重大で意図的な行為による破損として、あなたの請求する賠償額を損害賠償としてソムリエに損害賠償を求める事が出来るでしょう。
紛争解決・訴訟
Q:陪審員(Jury)として裁判に出席を求める召喚状が届き戸惑っています。仕事が忙しいので断ることは出来るでしょうか?また、断れなかった場合陪審員として何を求められ、何日間くらい拘束されるのでしょうか。 A:オーストラリアでは民事裁判で陪審員制度が使われる事はごく稀で、通常、陪審制度の適用は重大な刑事事件に限定されています。 まず陪審員の候補者はオーストラリア国籍で投票権のある人に限られ、その中からコンピューターでランダムに選ばれます。陪審員として裁判に出席(Jury Service)するのは国民の義務ですので、正当な理由なしに断ることは出来ません。この点重要なのは、適切な英語力が無い人は、陪審員になる資格がありません。これに加え、政治家、弁護士、警察官も陪審員にはなれません。妊婦、70歳以上の高齢者、現役の医者、歯医者、薬剤師はJury Serviceから免除されています。もし上記の職種(または理由)に当てはまるのであれば、送られてきた用紙に陪審員として出席できない理由を記入し、証拠(証明書など)をつけて返送してください。上記の条件を満たせない場合でも、健康上の問題や、陪審員を拒否できる他の正当な理由がある人は、その旨を記入した用紙と共に証拠を返送すれば、免除される場合があります。ちなみに「仕事が忙しい」は正当な理由にはなりません。その時点で免除されなくても、召喚日に裁判所に赴き裁判官に理由を説明し免除を求める事も出来ます。免除されなかった場合にはJury Serviceを全うしなければなりません。なお、当日裁判所に赴いても、実際に特定の裁判で陪審員として選ばれるか否かはその裁判を担当する弁護側または検察側の判断に委ねられます。 陪審員として選ばれた場合、何日くらい拘束されるかはその裁判によります。何か月にも及ぶ場合もありますし、当日被告が罪を認めてしまえば、陪審員の義務はそこで終了してしまいます。 陪審員制度は一般国民が裁判のプロセスに参加するという、いわば民主主義的な司法システムで、多くの国で採用されています。恐らくテレビや映画で陪審員制度がどういうものか、多くの人が既にご存知の事だと思います。実際に陪審員として選ばれれば、裁判官により、12人の陪審員として何をすることが求められているのか、何をしてはいけないのか等の説明がされます。陪審員には、例えば、裁判で提出された証拠に基づき被告には「殺意があったか否か」等の事実関係の判断のみが求められ、法律の解釈や適用等の判断は求められません。
紛争解決・訴訟
Q:ワーキングホリデーでシドニーに住んでいます。この数週間、環境や言葉の違いからくるストレスで鬱々とした日々を送っていました。先日買い物をしようとしたら、言葉がうまく通じず、むしゃくしゃして店員の胸ぐらをつかんで怒鳴ってしまいました。警官に押さえつけられた事や救急車に乗せられた事は覚えていますが、それ以外は意識が朦朧として何があったのかよく覚えていません。気が付くと、今いる病室に軟禁されていました。私はどうなってしまうのでしょうか。 A:それはMental Health Act(NSW)という法律に基づく、強制入院のケースだと思われます。 例えば暴行事件の疑いがあると判断された場合、通常警察はその被疑者を逮捕し連行します。しかしながら、被疑者に精神疾患が疑われるような場合、警察はMental Health Actに基づき強制入院の手続きに進むことがあります。なぜならば、刑法上、精神障害の度合いによってはその人はその行動に対し、刑事責任を問われない場合があるからです。このMental Health Actの主旨は、精神疾患を患っている人の人権を尊重しつつ、必要に応じ保護し、社会秩序を守るというものです。 一般的な流れとして、強制入院後、被疑者には二名の医師が割り当てられます。それらの医師の両方が「この患者は引き続き入院が必要」と判断すると、入院から2週間以内に、Mental Health Review Tribunalという裁決機関での手続きに移ります。一回目のTribunalのヒアリングでは「合法的に強制入院の手続きが行われた」かを確認し、医師等からの診断を基に、患者の入院の継続あるいは退院の判断がされます。退院となった場合、刑事事件につき訴追されるか否かは警察の判断に委ねられます。もし初回のTribunal ヒアリングで入院継続という判断がされた場合には、次は(通常)3名の審査官により再度、Tribunalヒアリングが行われ、退院か、あるいは最大3か月の入院延長の判断がされます。このTribunalヒアリングでは、本人にも弁護人が付く事になります。ちなみに弁護士を私的に任命できない場合にはリーガルエイドという国選弁護士をつけることも可能である場合があります。 保護者、例えば親などが近くにいれば、早期の退院が認められるケースは多いのですが、ワーキングホリデーや学生ビザ等、日本の家族から離れてシドニーで一人暮らしの方で、かつ、「こんなことを家族には知られたくない」というケースでは、保護者が不在ということで退院が遅れてしまうことも考えられます。
紛争解決・訴訟
Q:2年ほど前に、知人に10,000ドルを貸しました。期限12ヶ月、利息5%という条件を記した簡単な借用書も英語で作成し双方で署名しています。しかし期限が過ぎて、何度も催促したにもかかわらず、金利も元本も全く返してくれません。法的手段に訴えようかと考えたのですが、裁判となるとその費用が心配です。あまり費用をかけずに裁判をする方法はないでしょうか。 A:紛争の対象となっている額が比較的少額である場合、弁護士に依頼して裁判をすると、弁護士費用が相対的に高額になってしまい、勝訴しても結局、自分の懐にはあまりお金は入ってこないという結果になるケースがあります。 裁判で敗訴した側は勝訴した側の裁判費用の一部を支払うよう、裁判所により命じられることもありますが、その場合、相手から回収できる金額は実際にかかった裁判費用の一部だけにとどまるのが一般的です。従い、今回のような場合、弁護士に依頼することなくご自分で裁判を起こすことを考えてみてはいかがでしょうか? このような少額の訴訟案件($20,000以下の係争)を処理するために、裁判所(Local Court)には、Small Claims Divisionという部署が存在します。ここでの訴訟手続きは一般的な裁判所手続きに比べて簡易なものとなっており、弁護士に依頼することなく原告自身で進めることも比較的容易です。 訴状(Statement of Claim)の作成、裁判所への提出、そしてその送達(Service)の方法などは、政府系のウェブサイト(LawAccess NSWなど)で、法律の専門的な知識が無い一般人にもわかりやすく説明されていますので、まずはそこから調べてみると良いでしょう。 実際にSmall Claims Divisionでの訴訟手続きが開始されても、すぐさま裁判になるわけではありません。裁判の前にPre-trial Managementという、裁判所職員を間に入れて簡単な調停手続きがあるのもSmall Claims Divisionの特徴です。裁判に発展せずに、Pre-trial Managementで争いが解決するケースも多々あります。 Small Claims Divisionの裁判の進行は通常の裁判よりも一般人にわかりやすいように裁判官が話してくれる傾向があります。 ただし、Small Claims Divisionの手続きは「他の裁判所での手続きと比べれば、まだ簡単なほう」なのであって、今までに裁判の経験が全く無い方々にとってはハードルが高いかもしれません。まずは弁護士に相談して、Small Claims Divisionで自分で訴訟をするつもりである旨を伝え、最低限のアドバイスを求めたほうが良いかも知れません。また、裁判は被告にとっても相当な負担となりますので、訴訟を開始する前に、借り手に法的手続きに入る意志をしっかり伝え、出来るだけ裁判の前に、借り手と和解するのが好ましいと思います。
紛争解決・訴訟
Q:先日、上司から「残念ながら“リダンダンシー”の理由で君を解雇せざるを得なくなった」という旨の話がありました。普通の解雇とリダンダンシーはどう違うのでしょうか? A: “解雇”には、色々な形態があります。“Redundancyによる解雇”は、日本語では“整理解雇”と訳されるのが一般的です。リストラと言っても良いでしょう。その従業員の仕事の能力を理由とした解雇ではなく、雇用主である会社の運営上の理由により、当該従業員のポジションそれ自体が必要無くなった(Redundantになった)時にとられる解雇形態です。 リダンダンシーにより解雇された従業員に対しては、通常の解雇に際し従業員が有する権利(解雇通知を受け取る権利、未消化Annual Leaveの払い出し、場合によってはLong Service Leaveの払い出し)に加え、整理解雇手当(Redundancy Pay)として、勤続年数に応じた手当が支払われます。かつ、他の解雇の場合と違い、リダンダンシーに関し、受け取った支払に対しては、税務上優遇措置が設けられています。従い、その解雇が正当な(genuine) リダンダンシーであるか否かにつき、税務当局とたまに争いが起きることがあります。更に、労使協定によっては、解雇通知が出されてから最終出勤日までの間、求職のための特殊有給休暇取得の権利も従業員に与えられます。 正当なリダンダンシーとは、例えば、自動化プログラムやロボット等を新たに使うことになった結果、それまでは人力で行わわれていた仕事につき、人手を必要としなくなった場合や、組織再編に伴い、部署全体が消滅する場合等がそれにあたります。つまり、リダンダンシーの場合、その従業員のポジションが会社の運営上の理由によりなくなったということです。 昨今のコロナ不況に関連し、仕事量が激減したために人的資源が一時的(将来コロナの問題が解決すれば職場復帰が望まれている場合)に余剰となった従業員はリダンダンシーにはなり得ません。そのような場合には、一時的に従業員を「Stand down」(一時的な無給待機)にすることでの対処は可能かも知れません。 会社はRedundancyの対象となった従業員と話し合いを持ち、かつ、組織内で異動可能な他の妥当な役職があるか検討し、もしもそのような役職がある場合には、それを与える必要があります。このような決められた手続きを踏まないRedundancyとする解雇は、不当解雇のクレームを招くリスクがあります。
紛争解決・訴訟
離婚の際の財産分与 – マイホームの購入に親からの経済的援助を受けた場合 結婚後マイホームの購入する際、親からの資金援助を受けて購入する場合が多々あります。そのような状況において婚姻関係が決裂した場合、裁判所は親から受け取った資金を財産分与の際どうのように扱うのでしょうか。 一定の条件に基づいて返金が義務付けられていることを明記するローン同意書、担保証書、もしくはローンであることを確認した当事者間の話し合いの記録等なんらかの証拠がある場合、親から受けとった資金はローンであるとみなされます。受け取った資金が親からのギフトであった場合は返済の義務が伴いませんので、婚姻期間が長期にわたる場合は特に共有財産一部とみなされてしまう可能性が大です。親からの資金援助がローンであったかギフトであったかを考慮に入れ、当事者の共有資産の総額を算出しそれぞれの持ち分を決定する際、裁判所は、Family Law Actに明記されている様々な条件を考慮に入れます。 親からの資金援助がローンであったかギフトであったか明確でないケースが多々あり、離婚の際大問題に発展するケースが多々あります。例えば、親から$400,000の資金援助を受け$800,000のマイホームを購入し、すでにローンの支払が終わっている場合、この$400,000がローンであったかギフトであったかは共有財産の総額を定めるのに重要なポイントとなります。これは、その他の資産がなく資金援助の額が多きければ大きいほど重要な争点になっていきます。 子供に資金援助をする際は、弁護士をその時点で雇い、資金援助の意図を明確にしておくことです。これを怠ると子供が離婚することになった場合、離婚裁判に利害関係者として連名され裁判に出廷しなければならなくなったり、供述書を提出しなければならなくなり、長期間における重度のストレスを抱えることになります。更に裁判となると多額な弁護士費用がかかります。 離婚裁判の際弁護士費用に多額な資金を費やさないためには、財産分与に関する問題で事が裁判に進展ないよう、早期和解に向けて、初期段階において相手側と適切な交渉を開始することが重要です。