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オーストラリアの陪審員制度

林由紀夫, 上田大介    27 Jul 2022

Q:陪審員(Jury)として裁判に出席を求める召喚状が届き戸惑っています。仕事が忙しいので断ることは出来るでしょうか?また、断れなかった場合陪審員として何を求められ、何日間くらい拘束されるのでしょうか。

A:オーストラリアでは民事裁判で陪審員制度が使われる事はごく稀で、通常、陪審制度の適用は重大な刑事事件に限定されています。

まず陪審員の候補者はオーストラリア国籍で投票権のある人に限られ、その中からコンピューターでランダムに選ばれます。陪審員として裁判に出席(Jury Service)するのは国民の義務ですので、正当な理由なしに断ることは出来ません。この点重要なのは、適切な英語力が無い人は、陪審員になる資格がありません。これに加え、政治家、弁護士、警察官も陪審員にはなれません。妊婦、70歳以上の高齢者、現役の医者、歯医者、薬剤師はJury Serviceから免除されています。もし上記の職種(または理由)に当てはまるのであれば、送られてきた用紙に陪審員として出席できない理由を記入し、証拠(証明書など)をつけて返送してください。上記の条件を満たせない場合でも、健康上の問題や、陪審員を拒否できる他の正当な理由がある人は、その旨を記入した用紙と共に証拠を返送すれば、免除される場合があります。ちなみに「仕事が忙しい」は正当な理由にはなりません。その時点で免除されなくても、召喚日に裁判所に赴き裁判官に理由を説明し免除を求める事も出来ます。免除されなかった場合にはJury Serviceを全うしなければなりません。なお、当日裁判所に赴いても、実際に特定の裁判で陪審員として選ばれるか否かはその裁判を担当する弁護側または検察側の判断に委ねられます。

陪審員として選ばれた場合、何日くらい拘束されるかはその裁判によります。何か月にも及ぶ場合もありますし、当日被告が罪を認めてしまえば、陪審員の義務はそこで終了してしまいます。

陪審員制度は一般国民が裁判のプロセスに参加するという、いわば民主主義的な司法システムで、多くの国で採用されています。恐らくテレビや映画で陪審員制度がどういうものか、多くの人が既にご存知の事だと思います。実際に陪審員として選ばれれば、裁判官により、12人の陪審員として何をすることが求められているのか、何をしてはいけないのか等の説明がされます。陪審員には、例えば、裁判で提出された証拠に基づき被告には「殺意があったか否か」等の事実関係の判断のみが求められ、法律の解釈や適用等の判断は求められません。

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オーストラリアにおけるDV ―  Coercive Control (継続的な精神的/経済的虐待)

Q: 私は結婚して約30年になります(NSW州在住)。その間専業主婦として家庭を守り、二人の子供達を育ててきました。子供達はすでに家を出て独立しています。最近夫との仲がぎくしゃくするようになりました。特に私が友人と出かけたり、好きな趣味に没頭しているのが気に食わないようで、夫は絶えず不機嫌で口もきいてくれない状況です。今最も困っているのは、今まで自由にデビットカードを使えていたのが、夫が急にそれを使えなくしてしまった事です。生活費は毎週現金で最低額を手渡されます。それだけでは私は何も出来ません。夫には何度も今まで通りデビットカードを使えるようにして欲しいと頼んでみても、「俺はお前が好き勝手するために働いているわけじゃない!」と怒って全く取り合ってくれません。これはDVじゃないですか?    A:現時点ではご主人の行為はNSW州ではDVとはなりません。ただし来年2月1日からは他州と同様にDVとして扱われ、そのような行為はれっきとした犯罪となります。これまでNSW州では、暴力を伴わない精神的虐待・金銭的虐待はDVとして認められていませんでした。最近の法改制により他の州と同様に来年2月1日から、現パートナー、又は、元パートナーに対するCoercive ControlもDVとして扱われるようになりました。 Coercive Control とは暴力を伴わず、精神的/経済的・金銭的虐待を継続的に行うことにより、常に相手を自分の監視/管理下におき、束縛しようとする行為の事です。 例として以下が挙げられています。   • 相手、又は、相手の扶養者が加害者に経済的に頼っている状況下において、生活に必要な資金を与えないこと • 相手の求職・就職・職の維持を不当に妨害・制限・管理しようとする行為  相手の収入や資産にアクセスする行為・これらを管理する行為(共同名義の資産を含む)や、「Coercive Controlをするぞ」と脅す行為もDVとみなされます。 現時点で相談者の置かれている状況を打開するためには、Family Law等の案件として煩雑な裁判の手続きが伴い、迅速に解決するのは難しいと思われます。ただし、Coercive Controlが実際のDVに発展する可能性が高い事から、現時点でも警察は親身に話を聞いてくれると思います。同じようにDV被害者の相談を受けてくれるNSW Domestic Violence Line – 1800 656 463等に連絡するのも良いと思います。  


オーストラリア・飲酒運転の罰則 - 免停・罰金・インターロック装着プログラム

Q: 先般、会社の新年会後に社員の一人が帰宅途中、飲酒運転で警察に捕まり、その場で運転免許証は没収されてしまいました。この社員は営業職ですので、車の運転が出来ないと仕事に大きな支障をきたします。飲酒運転で捕まった場合、どんな罰則の対象になるのでしょうか?また、免許証はすぐに返してもらえますか?  A:飲酒運転は重大な犯罪で、有罪が確定してしまうと当然前科も付きます。起訴される内容、罰則は血中アルコール濃度によって下記のように異なってきます。再犯に対してはさらに厳しい罰則が設けられています。  初犯に関する罰則 血中アルコール濃度 Low-range 0.005-0.079 Mid-range 0.08-0.149 High-range 0.15以上 罰金通知 $603     即時免許停止 あり あり あり 裁判所が課す罰金の最高額  $2200 $2200 $3300 最高刑期 なし 9か月 18か月 免停期間  3-6か月 6か月―無期限 12か月-無期限 自動失格(特定の裁判所命令がない場合に適用される失格期間) 6か月 12か月 3年 アルコールインターロック命令の対象* なし あり あり    *インターロック装置とは、自動車、オートバイ、大型車などのイグニッションシステムに連動したアルコール検査装置です。原則的にMid-range以上はこの装置の設置は免れません。 車両を運転する前に、インターロックで呼気検査を行い、装置がアルコールを検知すると、車は発進しません。走行中のランダムな呼気テストもパスしなければなりません。必ず本人に検査を行わせるため、インターロックにはカメラが搭載されており、呼気を測定する様子が撮影されます。  質問者の社員の方がどのRangeで起訴されたか分かりませんが、一般的にLow-rangeの場合は免許証は没収されませんので、恐らく今回はMid-range以上だと思われます。限りなくLow-rangeに近いMid-rangeの場合を除いて、Mid-range、High-rangeで起訴された場合、免許停止は免れないでしょう。初犯であったり、他の交通違反が過去10年間なかった等、情状酌量の余地があれば、Mid-rangeであっても、免停期間を短縮できる可能性はあります。  


NSW州メンタルヘルスアクトに基づく強制入院

Q:ワーキングホリデーでシドニーに住んでいます。この数週間、環境や言葉の違いからくるストレスで鬱々とした日々を送っていました。先日買い物をしようとしたら、言葉がうまく通じず、むしゃくしゃして店員の胸ぐらをつかんで怒鳴ってしまいました。警官に押さえつけられた事や救急車に乗せられた事は覚えていますが、それ以外は意識が朦朧として何があったのかよく覚えていません。気が付くと、今いる病室に軟禁されていました。私はどうなってしまうのでしょうか。   A:それはMental Health Act(NSW)という法律に基づく、強制入院のケースだと思われます。 例えば暴行事件の疑いがあると判断された場合、通常警察はその被疑者を逮捕し連行します。しかしながら、被疑者に精神疾患が疑われるような場合、警察はMental Health Actに基づき強制入院の手続きに進むことがあります。なぜならば、刑法上、精神障害の度合いによってはその人はその行動に対し、刑事責任を問われない場合があるからです。このMental Health Actの主旨は、精神疾患を患っている人の人権を尊重しつつ、必要に応じ保護し、社会秩序を守るというものです。 一般的な流れとして、強制入院後、被疑者には二名の医師が割り当てられます。それらの医師の両方が「この患者は引き続き入院が必要」と判断すると、入院から2週間以内に、Mental Health Review Tribunalという裁決機関での手続きに移ります。一回目のTribunalのヒアリングでは「合法的に強制入院の手続きが行われた」かを確認し、医師等からの診断を基に、患者の入院の継続あるいは退院の判断がされます。退院となった場合、刑事事件につき訴追されるか否かは警察の判断に委ねられます。もし初回のTribunal ヒアリングで入院継続という判断がされた場合には、次は(通常)3名の審査官により再度、Tribunalヒアリングが行われ、退院か、あるいは最大3か月の入院延長の判断がされます。このTribunalヒアリングでは、本人にも弁護人が付く事になります。ちなみに弁護士を私的に任命できない場合にはリーガルエイドという国選弁護士をつけることも可能である場合があります。 保護者、例えば親などが近くにいれば、早期の退院が認められるケースは多いのですが、ワーキングホリデーや学生ビザ等、日本の家族から離れてシドニーで一人暮らしの方で、かつ、「こんなことを家族には知られたくない」というケースでは、保護者が不在ということで退院が遅れてしまうことも考えられます。  


簡易裁判所における少額請求

Q:2年ほど前に、知人に10,000ドルを貸しました。期限12ヶ月、利息5%という条件を記した簡単な借用書も英語で作成し双方で署名しています。しかし期限が過ぎて、何度も催促したにもかかわらず、金利も元本も全く返してくれません。法的手段に訴えようかと考えたのですが、裁判となるとその費用が心配です。あまり費用をかけずに裁判をする方法はないでしょうか。   A:紛争の対象となっている額が比較的少額である場合、弁護士に依頼して裁判をすると、弁護士費用が相対的に高額になってしまい、勝訴しても結局、自分の懐にはあまりお金は入ってこないという結果になるケースがあります。 裁判で敗訴した側は勝訴した側の裁判費用の一部を支払うよう、裁判所により命じられることもありますが、その場合、相手から回収できる金額は実際にかかった裁判費用の一部だけにとどまるのが一般的です。従い、今回のような場合、弁護士に依頼することなくご自分で裁判を起こすことを考えてみてはいかがでしょうか? このような少額の訴訟案件($20,000以下の係争)を処理するために、裁判所(Local Court)には、Small Claims Divisionという部署が存在します。ここでの訴訟手続きは一般的な裁判所手続きに比べて簡易なものとなっており、弁護士に依頼することなく原告自身で進めることも比較的容易です。 訴状(Statement of Claim)の作成、裁判所への提出、そしてその送達(Service)の方法などは、政府系のウェブサイト(LawAccess NSWなど)で、法律の専門的な知識が無い一般人にもわかりやすく説明されていますので、まずはそこから調べてみると良いでしょう。 実際にSmall Claims Divisionでの訴訟手続きが開始されても、すぐさま裁判になるわけではありません。裁判の前にPre-trial Managementという、裁判所職員を間に入れて簡単な調停手続きがあるのもSmall Claims Divisionの特徴です。裁判に発展せずに、Pre-trial Managementで争いが解決するケースも多々あります。 Small Claims Divisionの裁判の進行は通常の裁判よりも一般人にわかりやすいように裁判官が話してくれる傾向があります。 ただし、Small Claims Divisionの手続きは「他の裁判所での手続きと比べれば、まだ簡単なほう」なのであって、今までに裁判の経験が全く無い方々にとってはハードルが高いかもしれません。まずは弁護士に相談して、Small Claims Divisionで自分で訴訟をするつもりである旨を伝え、最低限のアドバイスを求めたほうが良いかも知れません。また、裁判は被告にとっても相当な負担となりますので、訴訟を開始する前に、借り手に法的手続きに入る意志をしっかり伝え、出来るだけ裁判の前に、借り手と和解するのが好ましいと思います。


オーストラリアにおける家庭内暴力 - DV・AVO

Q: コロナによる影響で自宅で過ごす時間が長いせいか、最近オーストラリアにおいてもドメスティックバイオレンス(DV)のケースが増えつつあり、裁判所も厳しい判決を下すようになったと聞いていますが、本当でしょうか?   A: まず、DVとは家族または親密な関係にある者同士の間で、暴力や脅迫により支配または威圧する行為を言います。DVは一般的に家庭内で起きることが特徴です。DVは身体的暴行に限らず、性的・心理的虐待、暴言、ストーカー行為、社会的・地理的隔離、財政的虐待(州によっては)、動物虐待等も含まれます。DVは他人に対する傷害事件と同じ犯罪行為ですが、安全が確保されるべき家庭内での暴力行為は、他の場合よりも重く扱われる傾向にあります。 DV行為の発生や継続を阻止するための措置(例えばカウンセリングや、コミュニティーサポート等)が特別に設けられていますが、実際にDVの危険に直面しているような緊急事態では、被害者は往々にして警察に通報する事になります。通報に応じた警察官は、「DVが行われた」という十分な疑いがあれば警察官は住居に立ち入り、加害者をその場で逮捕する事が出来ます。通常警察官は令状(Warrant)なしには住居に立ち入ることは出来ませんが、DVの場合にはその調査や対応に関し、より広範囲な権限を与えられています。その理由はDVが起こる頻度が高く、緊急を要する対応が必要な場合が多いからだと思われます。 DVにより加害者が逮捕された場合、一般的に加害者は傷害罪(assault)で起訴される事になり、その結果、刑事裁判が行われる事になります。刑事裁判において有罪が確定すれば、刑事罰の対象となり、前科が付く事になります。但し、情状酌量の余地があれば、裁判所は前科がつかなくなるような判決を下す事もあります。最近「裁判所が厳しい判決を下すようになった」と言うのは、この点に於いてです。つまり過去、DVにかかわる傷害事件においては、加害者が初犯(犯罪歴が無い)で、被害者に主だった外傷もなく、かつ、DV行為が一過性のもので、加害者が悔い改めていれば、往々にして裁判所は寛大な(前科をつけない)判決を下していました。 しかしながら、近年においては加害者が初犯の女性であって、被害者に主だった外傷もないような状況でも、犯罪歴がついてしまうという判決が出ています。例えば口論の挙句、横たわっていた筋骨隆々の彼氏に馬乗りになり、携帯電話を無理やり奪い取ろうとした女性の行為でさえ有罪となり、犯罪歴がついてしまったという事件もありました。  


オーストラリアにおける新型コロナ規制 ― ソーシャルディスタンス

Q:コロナウイルスにより、外出禁止、営業停止、ソーシャルディスタンスの遵守といった法令が出され、違反者には罰金が科せられると聞きました。でも、外出している人や営業している店は多いですし、ソーシャルディスタンスを守っていない人も多いように思います。本当に罰せられるのでしょうか?   A:2020年3月31日付で、Public Health (COVID-19 Restrictions on Gathering and Movement) Order 2020という法令が発布されました。コロナウィルスの拡散を防ぐために作られた法令なのですが、内容はやや複雑でわかりにくく、しばしば批判の対象になっているようです。違反者はには「最大6か月の懲役、或いは最大$11,000の罰金、あるいはその両方」が科せられると定められています。 この法令は主に“移動に関して”、“特定の場所の閉鎖”、“集会に関して”、 “土地・建物・施設のオーナー及び占有者の義務”という4つの部分から成っています。 “移動に関して”は、簡単に言うと、「正当な理由なく、外出してはならない」という命令です。同法令のSchedule 1に“正当な理由”が羅列されていますので、見てみてください。例えば買い物や通勤・通学、運動、医療上の理由は“正当な理由”に該当するとされています。 “特定の場所の閉鎖”では、閉鎖されなければいけない場所が示されています。例えば酒場、飲食店(イートイン)、エンターテイメント・アミューズメント・レクリエーション施設、ネイル・ビューティーサロン、タトゥーパーラー、マッサージ店、等々。 “集会に関して”は、「公的な場所において、2人を超える人数が集まってはならない」と示されています。但し、同法令6(2)項で例外も多く設けられています。例えば仕事、看護、法律上の必要がある場合は集まっても良いことになっています。更にSchedule 2で示されている“必要不可欠な集まり”(例:交通機関、病院、刑務所、裁判所、小売店、オフィス、学校)も許可されています。 “土地・建物・施設のオーナー及び占有者の義務”として「屋外であれば500人以上、屋内であれば100人以上を同時に集まらせてはならない」、また、「1人当たり4平米のスペースが確保されなければならない」とされています。この義務は小売店にも適用されます。小売店の入口に「一度に5名まで入店可」などと書かれているのは、このためです。但し住居や、Schedule 2に示された“必要不可欠な集まり”については、これらの義務を負わないとされています。 この法令は2020年の6月29日まで有効とされていますが、政府の判断によってはそれ以前に失効することも、逆に延長される事もあります。いずれにせよ、一日も早く、安心して過ごせる日々が戻ってくることを祈るばかりです。