ここ数年、従業員として雇うべき人にABNを取らせ、コントラクター契約で働かせるというケースが問題になっています。
一見するとコスト削減のように見えても、実態が雇用関係に近い場合は「偽装請負(Sham Contract)」とみなされ、Fair WorkやATO(税務当局)からの調査・制裁対象となります。
見直しが必要な理由
• 2024年8月26日施行の法改正で「雇用」の定義が変更され、契約書の文言よりも実際の働き方(実態)で従業員かコントラクターかが判断されるようになりました。
• 2025年1月から「意図的な賃金不払い」が刑事罰の対象になりました。
• 誤った契約形態が発覚すると、未払い賃金・Superの遡及支払いに加え、高額の罰金(個人$19,800/小規模事業$99,000/15名超事業$495,000)が科されるおそれがあり、経営上のリスクが一段と高まっています。
雇用と請負の基本的な違い
従業員と独立請負人の本質的な違いは次のとおりです。
• 従業員:貴社の事業に従事し、貴社の一員として業務を遂行します。
• コントラクター:貴社にサービスを提供しますが、自己の事業の発展のために業務を遂行します。
以下の表に照らし合わせ、自身の勤務体系がコントラクターではないと思う方はFair Workに調査を依頼すべきです。
| 判断要素 |
従業員 |
コントラクター |
| 指揮命令(Control) |
事業主が仕事の進め方・時間・場所を指示できる。
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自分で方法、場所、
時間を決める。
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| 業務の一体性 |
事業主の業務の一部として働く。
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自分の事業のために業務を行う。
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| 報酬形態 |
時給・日給・出来高・作業単価・コミッション
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成果や契約単位で成果完了時に支払われる。(定額報酬が多い。)
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| 再委任・代行の可否 |
労働者本人が業務を遂行し、他者に代行させることはできない。
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契約に再委託・代行を認める条項がある。
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| 機具・工具の提供 |
事業主が業務に必要な機具・工具全部または大部分を提供する、(労働者が大半を用意しても、事業主が手当や実費償還を行う。)
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労働者が必要な機器・工具全部または大部分を自ら提供する。
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リスク負担
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労働者のリスクは低いか皆無・事業主が商業上のリスク(傷害や瑕疵に伴う費用)を負う。
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労働者が商業上のリスクを負う。
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営業上の信用(Goodwill)
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労働者の業務から生じる信用・のれんは事業主に帰属する。
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信用・のれんは労働者側の事業に帰属する。
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一部の独立請負人にも生じ得るスーパー支払義務
一定の状況では、コントラクターであっても、年金(superannuation)の規定上従業員とみなされ、貴社にスーパー(Superannuation)の支払義務が生じます。例えば、労働者が次のいずれかに該当する場合です。
• 契約が全面的または主として労務の提供を目的としている。(例:現場作業員・ドライバー・介護スタッフなど)では、ABNを持っていてもSuper支払い義務が発生することがあります。)
• 家事的性質の業務を週30時間超行っている。
• スポーツ選手・芸術家・エンターテイナーで、音楽、演劇、舞踊、エンタメ、スポーツ、展示、販促その他類似の活動の出演・実演・参加の対価として報酬が支払われる。
• 上記の活動への出演・実演・参加に関連するサービスの提供対価として報酬が支払われる。
• 映画・テープ・ディスク・テレビ/ラジオ放送の制作に関連するサービスの提供対価として報酬が支払われる。
経営者が負うリスク
• ATOペナルティ:PAYG未納・Super未払い・利息・事務手数料
• Super Guarantee Charge(SGC):不足額+利息+手数料に加え、最大200%の追加罰金
• Fair Work違反:偽装請負(Sham Contract)で1件あたり最大$495,000の民事罰
• 刑事罰(2025年1月〜):意図的な賃金不払い
経営者がすべきこと
1. 全従業者の契約形態を精査する
→ 「実態は従業員ではないか?」を確認
2. Super(年金)やPAYGの支払い状況をチェック
→ 未払いがあれば早めに是正
3. Fair Work・ATOのガイドラインを参照
→ 「Employee or Contractor Decision Tool」で判断可
4. 必要に応じて契約を従業員契約に切替
「コントラクターだから安心」と思っていても、実態が雇用であれば法的責任は免れません。正しい契約形態を維持することは、会社の信頼と持続的経営のための基本です。今一度、自社の契約実務を見直してみてください。