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不動産法 オーストラリアにおける店舗のリース契約・注意点 ① 

林由紀夫    03 Oct 2018

Q:  カフェを始めるに当たり、店舗を借りることになりました。リース契約を結ぶ時には、どういうことに気を付けたら良いでしょうか?(30代男性=飲食店勤務)

 

A: カフェを営む上で、店舗のリースが最も重要であると言っても過言ではありません。賃貸期間、賃料、賃料の見直し条件、銀行保証、共益費の負担、営業日や営業時間の指定、店舗内の器具備品の修繕義務といった基本的な事柄について気を付ける必要があるのはもちろんのこと、リース契約書には他にも多く、大家に有利な条件が課されています。

 

大家と色々な条件に付いて交渉する上でベストなタイミングは、リース契約のドラフトが発行される前の時点です。従って、この時点で経験のある弁護士等専門家に相談し、色々なアドバイスを受け、基本的条件につき大家と交渉すると良いと思います。

 

リース締結前のチェックリスト

所有者及び物件に登記上の問題が無いかの確認。カフェを営む事が出来る開発許可が役所から下りているかの確認。トイレ、エアコン、冷蔵庫、コンロ、グリーストラップ等重要なものについては、問題が無いか業者に検査してもらう。器具備品を引き継ぐ場合には、それらの所有権の確認(場合によってはリースされていたり、抵当権が設定されている可能性もある)。店舗を改修する場合には大家と事前合意をしておくべき。既存のビジネスを購入する場合には、売り上げと併せて、上述のような調査をし、購入価格が適正であるか判断すると良いです。

 

銀行保証

商業物件をリースする場合、大家はほとんど例外なく、賃料数ヶ月分の額の銀行保証を必要とします。銀行保証とは、店子が支払い不能になった場合に、銀行が店子に代わって合意された分の賃料を大家に支払うというものです。銀行はその保証を出すにあたり、店子が同額の定期預金を担保として設定する事を通常必要とします。従って、リース期間中、その定期預金は凍結されてしまいます。

 

リース期間

リース期間が終了した後、同リースを更新するか、また更新後の賃料をいくらにするかは、大家の自由裁量に委ねられてしまいます。繁盛店の場合には、新たなリース契約を締結するにあたり、大家が足元を見て賃料を高く設定してくることも十分考えられます。また、第三者が、店舗に対し多額の賃料を大家に提示し、その商売を乗っ取ろうとする事もあります。この場合、第三者が提示した賃料が、新たな賃料となりかねません。

 

リース期間は長ければ良いというものでもありません。「ようやくリースが終わり店がたためる」とほっとしているテナントもいるわけです。この点、リース期間延長オプション権というものが借り手に与えられている契約も多く見られます。リース契約は千差万別ですので、上記以外にも気をつけるべき点は幾つもあります。それぞれのビジネス上のニーズもあるでしょうから、やはりリース契約の前に、弁護士に相談してみることをお勧めします。

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不動産購入時に注意すべき「土地利用制限」Restriction on Use

土地や住宅を購入する際、登記上に記載されている「土地利用制限」(Restriction on Use)に注意する必要があります。これらは、購入後の利用や将来の売却に大きな影響を及ぼす可能性があります。   「土地利用制限」とは?「土地利用制限」とは、土地の使い方を制限する規則のことです。例えば、「特定の建材しか使用できない」「建物の高さやデザインに制限がある」「商業利用を禁止する」「どのような建物を建てられるか」「樹木の伐採禁止」といった基準が設けられ、分譲地全体の品質・景観・資産価値を守る役割を果たしています。 設定するのは主に開発業者や自治体(カウンシル)です。開発業者は分譲地の価値維持を目的に、自治体は都市計画や環境整備の一環として設定する場合があります。 違反した場合のリスク(NSW州での取り扱い)「土地利用制限」に違反したからといってすぐにトラブルになるとは限りませんが、NSW州では、土地に付帯する制限に違反する行為を行うと、以下のようなリスクが発生し、深刻な問題につながる可能性があります。 •    自治体からの差止命令・是正命令•    開発申請の拒否・証明書発行の拒否・建築の不許可•    違反建築物の撤去命令•    損害賠償請求•    近隣の住人からの法的措置•    売却時の困難(買主側の弁護士が違反を発見すると、購入希望者が契約を撤回する、大幅な価格交渉を受ける、売主に補償や是正義務を負わせる要求をされるといったような不利益が生じる可能性があります。) 「土地利用制限」は、その土地の承継人にも全面的に引き継がれる義務です。例えば、前の所有者が保護された樹木を伐採して違反した場合でも、現所有者はその是正責任を負い、再植樹や環境補償措置を命じられるリスクがあります。違反状態が未解消のままであれば、上記のような実務的リスクが極めて大きくなります。現所有者は過去の違反行為そのものについては責任を負いませんが、土地が制限に適合した状態に戻るまでの是正義務を免れることはできません。   弁護士に相談する重要性 「土地利用制限」は、不動産購入後の生活や投資に直結する重要な要素です。同制限の条件は複雑で不明瞭な場合が少なくありません。専門的な知識がなければ正確に理解するのは困難です。購入前に弁護士が確認すれば、既存の建物が制限に違反していないかをチェックでき、将来的なリスクを避けることが可能です。知らずに違反してしまうと、思わぬ損失やトラブルを招きかねません。購入・売却を検討される際は、必ず専門家にご相談ください。当事務所では、NSW、QLD、VICの不動産取引に関する豊富な経験を持つ弁護士が、契約内容や制限条項の確認、将来的なリスクの回避について丁寧にサポートいたします。初回相談のご予約や詳細については、お電話またはメールにてお気軽にお問い合わせください。  


NEW First Home Buyers 5% Deposit Scheme Goes Live!

2025年10月1日より新しいFirst Home Buyer向けの新制度がスタートしました! -  頭金5%でLMI不要(Single Parentの場合は頭金2%でLMI不要) - 所得制限なし - 2025/26年度からは利用枠の制限なし   詳細は新しい「First Home Buyers」ウェブサイトをご確認ください: https://firsthomebuyers.gov.au/   この制度を利用することで、住宅ローン保険(LMI)費用として 15,000ドルから20,000ドル を節約できます。 オーストラリア国民か永住権保持者のみ申請可 決済日(もしくは、居住許可が下りた日から6か月以内に)から6か月以内に購入した物件に入居し、ローンの返済が終わるまで同物件に居住し続けること 中古物件、新築、House & Land Package、Off the Planの物件に適用 週により購入物件の上限が設けられています。(例:NSW Capital City & Reginal Centres: $1.5MIL / その他の地域800k, VIC Capital City & Regional Centers: $950k / その他の地域:$650k, QLD Capital City & Regional Centres: $1MIL / その他の地域:$600k) 条件を満たしていればRefinance可)   詳しくは以下のリンクをご参照ください。 Australian Government 5% Deposit Scheme Information Guide.pdf https://firsthomebuyers.gov.au/australian-government-5-percent-deposit-scheme  


オーストラリアにおける店舗のリース契約・注意点 ② 

Q:  カフェを始めるに当たり、店舗を借りることになりました。リース契約を結ぶ時には、どういうことに気を付けたら良いでしょうか?(30代男性=飲食店勤務)   A: 今回はリテール(小売り)リースに関する法律に重点を置き、NSW州法「Retail Lease Act」(以下、Retail Lease法)について説明します。他州にも同様の法律が存在します。  一般的にリース契約書は、物件オーナーに一方的に有利に書かれた書類です。かつて、小売店舗リースに関して、オーナーと店子の間でもめ事が絶えず、社会的な問題に発展したという背景があります。そこでこうした小売店舗リースに公正さをもたらすために、Retail Lease法が立法されました。       「Disclosure Statement」 まず、リース契約締結前に、オーナーは店子に対し、そのリースに関する重要事項を、全て分かりやすく店子に伝えるべく、「Disclosure Statement」という書類を提出するよう義務付けられています。もしこのDisclosure Statementに不備があったり、虚偽の情報が盛り込まれていたりすると、後に店子にリース契約を解約する権利が生じたり、また、オーナーに罰金が科されたりすることがあります。 Disclosure Statementの内容は、以下を含みます。 賃料、賃料が見直される方法 共益費の詳細及びその店子の負担割合 オーナーがリースと共に提供する器具備品の詳細 オーナーが施す内装工事及びそれに対する店子の負担率 オーナーが必要とする店構えの詳細、この他、店子が負担する支払いなど Disclosure Statementは、リース契約締結の少なくとも7日前に店子に渡すことが義務付けられています。また、店子はDisclosure Statementを受け取った後、オーナーに対して受け取りの確認及び「Lessee’s Disclosure Statement」を7日以内に返送しなくてはなりません。 Lessee’s Disclosure Statementの中には、店子として、「本リース契約上の条件を全うできる確信がある」という確認や、特に重要なのは、リース契約書に記されたこと以外で、エージェントまたはオーナーと口約束があった場合には、その詳細の記入も求められているという点です。それらの詳細の記入がない場合には、後日、そうした口約束の主張ができなくなる可能性がありますので注意が必要です。   契約に関する費用の支払い 一般的な商業リース(オフィスなど)の場合、リース契約書の締結に関わるオーナーの法務費用は全てテナントが負担する、という条件が多々見受けられます。しかし小売店舗リースの場合は、そうしたオーナーの費用を店子に負わせる事は原則的に禁じられています。同様に、店子に対し「Key Money」(ボンドや保証金と違い、返金されることがない、日本でいう「礼金」に相当)の支払いを求めることも禁じられています。 NSW州以外にお住まいの方は、それぞれの州のRetail Lease法につき、各州の専門家にご確認ください。