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商取引及び会社法
「不公正な契約条項」とは? 「不公正」と見做された契約条項は、豪州の裁判所では強制力を持たない。契約条項が以下の定義を満たした場合、ASIC法または消費者保護法(Competition and Consumer Act 2010)(ACL)の基づき、「不公正」であると判断される: 1. その条項が、契約当事者間の権利および義務に、著しい不均衡を引き起こすこと; 2. その条項により利益を得る契約当事者の正当な利益を保護するために、合理的に必要ないこと; 3. その条項が適用された場合、当事者に経済的またはその他の損害・被害を与えることになること。 特筆すべきは、ACLはStandard Form Contracts(「標準型契約」)に含まれる不公正な契約条項から消費者および小規模な企業を保護する。「標準型契約」とは、交渉力の不均衡がある契約、交渉や修正の余地がほとんどないテンプレートに基づいている契約書、または「受け入れるか拒否するか」(take it or leave it)以外の選択肢がない状況で提示された契約書のことを指す。法律上、全ての契約書は「標準型契約」であるとみなされるため、もしも不公正な契約条項のクレームが生じた場合、契約書の作成者が「これは標準型契約ではない(だから不公正な契約条項の規制は受けない)」という証明責任を負う。 Auto & General事件 2023年4月4日、Australian Securities and Investments Commission (ASIC) (豪州証券投資委員会)は、Auto&General Insurance Company Limited(以下、Auto & General)に対し、消費者からの請求を不当に拒否出来るとされる契約条項の無効性について、連邦裁判所に提訴した。当該契約では、「顧客の家屋や家財に何か変化があった場合」、顧客はAuto & Generalに対し、その旨通知する義務を負わせていた。ASICは、この条項について以下のような見解を示した: • 保険契約者の家屋や家財に関し「何か」変化があった場合、Auto & Generalに通知する義務を顧客に課すことは、過剰な負担であり、尚且つ曖昧で非現実的である; • 保険契約者が通知を怠ったという理由だけでAuto & Generalが保険給付請求を拒否または減額できるといった権利は、Insurance Contracts Act 1984に規定されている拒否権よりはるかに広範である; • 保険契約者に対する実際の義務や権利について誤解を招く可能性がある。 したがって、ASICはAustralian Securities and Investments Commission Act 2001(ASIC法)(豪州証券投資委員会法)に基づき、この契約条項が不公正であると主張している。 不公正な契約条項規定に関する最近の法改正 Auto & General事件は、ACLおよびASIC法上の不公正な契約条項規定の範囲を大幅に拡大する最近の法改正に関連したものであり、政府が当規定の執行に焦点を当てていること(ひいては、企業が契約条項を見直す必要性)を示している。 注意すべき主な変更点は、不公正な契約条項禁止の違反に対するASIC法上の民事罰(罰金)の導入、およびACLにおいて規定される最大罰金額の大幅な引き上げである。当規定の違反に対し、今までは原則的に罰金が課されなかったため、ほとんど無力だったという問題の対応であった。これらの罰則は2023年11月10日より適用される。 主な法改正の概要は以下の通りである。 現在(法改正前) 法改正後 不公正な契約条項保護は、小規模企業契約に適用される。すなわち、一方の当事者企業の従業員数が20人未満であり、契約の前払い金が$300,000未満、または12か月を超える契約金が$1,000,000以下の場合に適用される。 ACL上、不公正な契約条項保護は、一方の当事者企業の従業員数が100人未満、または前年度の売上が$10,000,000以下である場合(前払い金額に関係なく)適用される。 ASIC法上、保護規定は前払い金が$5,000,000以下で、一方の当事者企業の従業員数が100人未満であるか、前年度の売上が$10,000,000以下の場合に適用される。 罰金はない。 法人の場合、罰金額は最大で、下記いずれかのうち最も大きい金額のものになりうる: • $50,000,000; • 不公正契約条項により得られたであろう利益額の3倍;または、 • 違反行為を行った期間中の売上高の30%。 個人の場合、最高額$2,500,000までの罰金が課せられる。 裁判所が標準型契約の条項が不公正であると判断した場合、その条項は自動的に無効となる。 当事者が損害を受けた、または受ける可能性が高い場合、裁判所は、契約の全体または一部を無効とすることができる。 裁判所は、次のような命令を下すことができる: ・実際の損失や損害がなくても、損失や損害が生じる可能性がある場合には、契約全体または一部を、無効化あるいは変更し、または執行を拒否すること。 ・規制当局の申し立てにより、過去に不公正と宣言された条項と同じ、または実質的に同じ効果がある条項が、今後の標準型契約の小規模企業契約または消費者契約に含まれないようにすること。 ・規制当局の申し立てにより、過去に不公正と宣言された条項と同じ、または実質的に同じ効果がある条項が損失や損害を与える可能性がある場合、その損害を防止または軽減すること。 法改正の影響 ASICの副委員長、サラ・コート氏は次のように述べている。 「契約条項は、当事者が現実的に遵守できるように、つり合いが取れ、透明でかつ明確である必要がある。契約に基づく当事者の実際の権利と責任が正確に記述されていなければならない。」 この、間もなく実施される不公正な契約条項禁止法の改正に鑑み、問題が生じないよう、現在使用している標準型契約書の専門家によるレビューをお勧めします。 ご質問等ございましたらH & H Lawyersまでお気軽にお問い合わせください。 免責事項:本書の内容は一般的なものであり、法的アドバイスを提供するものではありません。情報は外部の情報源から取得されたものであり、掲載日または将来における情報の正確性、また最新性を保証するものではありません。本書で取り上げた事項に関しては、別途ご自身の状況に即した法的アドバイスを得てください。
商取引及び会社法
Q:シドニーで清掃サービス会社を経営しています。先日、携帯電話に登録されているコンタクトリストを使って、自社の清掃サービスのプロモーションのメールを一斉送信したところ、「これは違法なスパムメールだ」という指摘を受けました。何か罰則があるのでしょうか? A:スパムメールは、Spam Act 2003というオーストラリア連邦法により規制されています。 この法律はメールだけでなくSMS、MMS、LINEなど広範囲な「Commercial Electronic Message」に適用されます。 同法上の “Commercial” の定義は広く、下記を含みます。 1. 商品・サービス・土地・ビジネス・投資に関する、オファー・プロモーション・広告を目的とするもの。 2. 商品・サービス・ビジネス・投資を提供する業者に関する、広告・プロモーションを目的とするもの。 3. 他者をだますことで不当な利益を得ることを補助する目的のもの。 4. 従い、商品・サービス・土地・ビジネス・投資に関するほぼ全てのElectronic Messageがこの定義でカバーされると言っていいでしょう。数少ない例外として、例えば、商品購入の確認メールなどはこの定義には入らないと考えられます。 今回の相談の件は、上記の条件を満たす「Commercial Electronic Message」にあたり、Spam Actの対象になると判断します。 こうしたCommercial Electronic Messageにつき、Spam Actは以下の事項を義務付けています。 1. 受信者の承諾を得ずに、あるいは暗黙に承諾されていると妥当に考えられる状況でなければ、Commercial Electronic Messageを送ってはならない。 2. 送信者の情報(少なくとも名前あるいは会社名、ABN、連絡先)を記すこと。 3. 簡単に受信解除(Unsubscribe)できる方法を明確に記すこと。例えば、Unsubscribeのためのウェブサイトのリンク先を記載する等。 4. 受信者からの要請があれば、5日以内にUnsubscribeの処理をすること。 自分のコンタクトリストに登録されている人に無差別にコマーシャルメッセージを送信する場合、個々の受信者からの承諾を得るか、または、暗黙に承諾されていると妥当に考えられる状況でなければなりません。今回の相談の場合この点が満たされているかが問題です。また、Unsubscribeの方法を記さなくてはいけません。 Spam Actに違反すると、担当官庁であるThe Australian Communications and Media Authorityから是正勧告や少なからぬ額の罰金の支払い命令を受ける場合がありますので、こうしたメールの扱いには十分気を付ける必要があります。
商取引及び会社法
Q:友人と一緒に、カフェを始めようと思っています。気の合う友達同士なので、形式ばった契約書などは必要無いかと思ったのですが、別の知人からは「取り決めを、覚え書き程度にでも、書面で残しておいたほうがいいのでは?」と言われました。どういった書類が必要になるのでしょうか? A:取り決めを書面化することは絶対に必要だと考えます。気の合う友達同士であればなおさらです。例えば、後にビジネスの経営方針につき重大な意見の相違が生じたり、利益の分配に関し合意が得られない場合等、その解決の拠り所となるルール(合意書)が存在しないと、問題の解決がいちじるしく困難になってしまいます。 さて、まずは「友人と一緒にカフェを始める」ということについて、明確にする必要があります。二人で、新規に会社を設立して、会社を通じてのカフェ経営となるのか?あるいは、二人がそれぞれ個人・連帯責任を負う“パートナーシップ”での経営となるのか?あるいは一人が経営者となり、もう一人は従業員という形にしても、「一緒にカフェをやる」ということは可能です。 もしも会社を設立するということであれば、二人はそれぞれ幾ら出資するのか?また、その出資は、“資本金”という形で出すのか、あるいは会社への“貸付”という形で出すのか?「お金を出す」にしても、これを資本金とするか会社への貸付とするかで、権利・リスクは大きく変わってきます。 資本金として出資するのであれば、その出資額に応じて株式が発行されます。通常、会社の総株式数の過半数を超える株主は、(役員の選任を通じ)会社の運営方針の最終決定権を握ることになります。 また、お互いの給料の額及び、カフェで利益が出た場合に、それをどう分配するのか?ということについても決めておくべきです。ただ「出資比率に応じて利益は分配する」という簡単な話ではなく、例えば未来に向けての設備投資のために、利益のうち幾らかは二人で分配せずにビジネス内部に留めておく必要もあるかと思います。なお、お互いの利益分配、幾らをビジネスの運営のためにキープするのか?という点については、往々にして争いの原因となります。 上記とは逆に、もしもカフェの運営が上手くいかず、例えば追加で資金注入が必要となった際の、お互いの責任・義務についても、出資形態や運営形態を決める上で考慮しなくてはいけない点です。 複数で事業を行う個々の形態にはそれぞれの長所・短所があります。あなたたちにとって一番適した形態を選ぶためには弁護士や、会計士にアドバイスも求め、二人でよく相談するところから始めてはいかがでしょうか。
商取引及び会社法
Q:9か月前に$25,000を投じ、オフィス用に最新のコピー機兼プリンターを購入しました。あまり名の通った会社の製品ではありませんが、その機能に比べ結構安かったので購入することに決めました。購入当初から機械の調子が悪く、何度か修理に来てもらったのですが、すぐにまた故障してしまい困っています。また、業者からは「私たちは中国の会社から製品を輸入しているだけだから、これ以上問題があるのなら中国の製造業者に直接クレームしてくれ」ともいわれました。最近では修理の要請依頼も無視されてしまっています。知り合いに相談したところ、事務所で使用するコピー機等は業務用であるため、消費者保護法上の保護は受けられないと聞きました。本当でしょうか? A:相談者の知り合いからのアドバイスは間違っています。また販売店からの「中国の製造業者に対してクレームしてくれ」というのも、適切ではありません。今回の件に関しては、十分オーストラリア消費者保護法(Australian Consumer Law、略して「ACL」)によって定められている消費者保証にしたがって販売会社にクレームすることが可能です。 ACL上の消費者保証の対象者は「$40,000未満の製品を購入した者」と定められています。つまり、その製品の使用目的が、個人消費または、家庭内で使われるような性質の製品でなくとも、$40,000未満であれば消費者保証の対象となります。(注:今回の記事を書いている2020年8月現在では、ACLの“消費者”の定義の金額上限は$40,000ですが、2021年の7月1日からはこの上限額が$100,000に引き上げられることが予定されています。) しかし、例外として「製品の購入が卸売や転売目的であった場合」または「商業目的で、その製品を何か別のものに作り替える、或いはその製品を他の物の修理に使用する場合」が定められています。今回はこの例外には当たらないと思われます。また、消費者がその購入した製品の不具合に関し、その都度海外の製造業者にクレームするという事は、消費者に対し、非現実的な負担を与えることになり、事実上クレームが出来ないことになってしまいます。この点をカバーするため、ACL上今回の販売店のような輸入業者を「あたかも製造業者」とみなしALC上の義務を負わせています。したがって、商品を販売する輸入業者はこの点の留意が必要です。 今回の相談者には、購入されたコピー機の不良の度合いによって販売会社に対し、返品、返金、無償修理を求める権利が生じるものと考えます。Fair Trading NSWや、Australian Competition and Consumer Commission等の政府機関の相談窓口を通じてクレームすると良いと思います。
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Q:先週、中古車を$5,000の現金払いで購入しました。3回ほど乗ったのですが、昨日突然エンジンが動かなくなりました。近くの自動車修理屋に持っていったところ、エンジンを全取り換えしなければならないといわれました。売手に連絡をしてみると、「$5,000の安物なんだから壊れても文句を言うな」と、何ら対応をしてくれる気配もありません。どうしたらいいでしょうか? A:カーディーラーを通じて車を購入する場合は、新品・中古の別を問わず、原則的にオーストラリア消費者保護法の対象となり、その車が“Acceptable Quality”であるという法定消費者保証が付きます。どの程度の品質が“Acceptable”として保証されているのかの判断は、その車の年式・走行距離や、購入時・購入後の状態を鑑みた上でのケースバイケースの判断になります。 例えば、もしもこの車が20年落ちモデル・走行距離20万キロ以上の車で、購入前に「今のところは問題なく走っているけど、そろそろエンジンの寿命が近い」と注意を受けた上で$1,000で購入し、1年乗った果てに壊れた…という場合、これは$1,000相応の“Acceptable Quality”であったと判断される可能性が高く、流石に保証外になるように思われます。 本件は年式や走行距離は不明ではあるものの、$5,000で購入した車が1週間で3回運転しただけで壊れたということであれば、これは保証対象になる可能性が高いように思われ、ディーラーには返金や修理といった対応をする義務が生じると考えます。 更に、NSWにおけるディーラー販売の中古車については、オーストラリア消費者保護法に加えて、Motor Dealers and Repairers Act というNSW州法により、購入後3か月以内(又は走行距離5,000キロ以下)において法定保証でカバーされることがあります。 まずは担当官庁であるAustralian Competition and Consumer Commission (「ACCC」)またはNSW Fair Tradeという機関に相談してみるといいでしょう。 ところで、これらの消費者保護はディーラーなど、ビジネスを通じての売買に適用されるものであり、個人間で売買される車両には適用が難しく、またACCCやNSW Fair Tradeといった機関の管轄から外れることにもなり得ます。 売買プラットフォーム(例:ebay)によっては紛争解決のために仲介をしてくれるところもあるようですが、一般的には個人の売手に対して、買手がアフターサービスや返金を求めることは(そのための別途取り決めがない限り)難しくなります。よって、ディーラーから買うよりも個人から買ったほうが購入金額は安く上がりますが、その分のリスクは伴います。
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Q:レストランを経営しています。店のプロモーションをかねて、お店に来てくれたお客さんたち一人一人に名前と連絡先を紙に書いてもらって、箱に入れ、毎月一回の抽選に当たった人に、当店の100ドル分のギフト券を進呈するという企画をしています。一口につき、1ドルを予定しています。ところが、知人から「そうした宝くじは違法だ」と指摘されました。 A:いわゆる「宝くじ」のような、参加者らの中から抽選によって商品・賞金が贈られるといった催しは、原則的に各州の法律により禁じられています(例えば、LOTTERIES AND ART UNIONS ACT 1901 の第3条)。しかし、そうした宝くじが例外的に合法となる場合も多く存在します。例えば、“NSW Lotto”のように、国から正式に許可を受けて運営されている宝くじはもちろん合法です。また、非営利組織が、チャリティ目的で開催するような宝くじやビンゴゲームも合法となる場合がありますが(同法第4条)、その開催規模と賞品・賞金額には制限が設けられています。なお、今回の件とは直接的な関係はありませんが、災害の支援等のために募金を募る場合、その募金額が1万5千ドルを超えるような場合には、NSW Fair Tradingに登録する義務があり、色々な条件が課されますので、注意が必要です。ちなみに募金額が年に25万ドル以上の場合には、監査法人による正式な監査が必要となります。 営利目的であったとしても、くじ引きそれ自体から利益を得るのではなく、今回の相談者のようにビジネスプロモーションを目的としたくじ引き(同法第4B条)であれば、州政府(NSW Fair Trading)からライセンスを取得することで合法的に開催することができます(同法第 4B(3)(a)条)。ライセンスの取得はオンラインで比較的簡単にできますが、申請時に、賞金額や賞品数、商品の種類、くじの開催期間、くじの種類、当選者の発表日時や発表の方法等々、多くの事柄につき通知することになります。また、これらの事柄については、くじの参加者たちにも十分知らせておくことが求められますので、ポスターやチラシ等を用意する必要もあると思います。 ここで注意したいのは、こうしたプロモーションのためのくじ引きのエントリーは無料でなければならない(同法第S 4B(3)(c)条)ということです。したがい、今回のように「一口1ドル」という形で参加者にくじの購入を求めることはできません。但し、特定の商品を購入することをくじ引きのエントリー条件とすることには問題はありませんので、今回の相談者のケースでしたら、例えば、「デザートを一品注文すること」をエントリー条件としてはいかがでしょうか。