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商取引及び会社法
小規模事業者再編制度(Small Business Restructuring) 2021年に導入された小規模事業者再編制度(Small Business Restructuring=SBR)は、オーストラリア全土の小規模事業者、特に近年の経済低迷の影響を受けた企業にとって、会社清算に代わる重要な選択肢となっています。 特にファミリービジネスを含む小規模企業の事業継続を支援するために設計されたSBRは、企業が営業を続けながら、法的に財務状況をリセットできる仕組みです。 事業継続のための法的手段 SBRは、債務超過に直面した小規模事業者が、従来の清算手続きによる会社閉鎖を回避できるように設けられました。 SBRを利用することで、該当企業は債権者に対して再編計画を提案し、会社法(Corporations Act)に基づき、債務の削減や免除を求めることが可能です。 このプロセスにより、企業は営業を継続しながら、法的に整理された形で財務問題に対処できます。 利用資格と手続き SBRを利用するには、総債務額が100万ドル以下であり、未払いの従業員賃金や年金(superannuation)は含まれていないことが条件になります。 SBRの実行には債権者の承認が必要です。債権者の投票権は貸している金額によって決まり、債務全体の51%以上を持つ債権者が最終決定権を持つことになります。 利用増加とその影響 ASICの最新データによると、SBRの申請件数は大幅に増加しており、昨年は約3,000件が債権者に提示されました。 この増加は、SBRの認知度向上と、多くの小規模事業者が厳しい経営環境に直面していることを反映しています。 特に飲食業界は大きな打撃を受けており、同業界の10社に1社が昨年清算されました。 多くの再編計画では、債務額が20万〜40万ドルの範囲で、債務の最大80%の免除を債権者に求めています。 SBRの約80%が承認されているのも注目すべき点です。 オーストラリア税務局(ATO)の役割 SBR案件の93%に関与しているオーストラリア税務局(ATO)は、最大の債権者(GST) として重要な役割を果たしています。 ATOはこれまでに約2,500件のSBR計画を承認しており、2024-25会計年度3月時点では、ATOが債権者となった再編計画の約80%に賛成票を投じています。 宿泊業および飲食業(カフェ、レストラン、テイクアウトサービスを含む)は、SBR全体の22%を占めています。 ATOの関与が大きいため、再編計画の可否はほとんどの場合、ATOの判断に左右されます。 ATOが再編計画に賛成すれば、他の小口債権者もその計画に組み込まれる形となります。 制度のセーフガードと除外規定 制度の健全性を保つため、過去7年以内に清算や再編に関与した取締役がいる企業は、SBRの申請資格がありません。
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「不公正な契約条項」とは? 「不公正」と見做された契約条項は、豪州の裁判所では強制力を持たない。契約条項が以下の定義を満たした場合、ASIC法または消費者保護法(Competition and Consumer Act 2010)(ACL)の基づき、「不公正」であると判断される: 1. その条項が、契約当事者間の権利および義務に、著しい不均衡を引き起こすこと; 2. その条項により利益を得る契約当事者の正当な利益を保護するために、合理的に必要ないこと; 3. その条項が適用された場合、当事者に経済的またはその他の損害・被害を与えることになること。 特筆すべきは、ACLはStandard Form Contracts(「標準型契約」)に含まれる不公正な契約条項から消費者および小規模な企業を保護する。「標準型契約」とは、交渉力の不均衡がある契約、交渉や修正の余地がほとんどないテンプレートに基づいている契約書、または「受け入れるか拒否するか」(take it or leave it)以外の選択肢がない状況で提示された契約書のことを指す。法律上、全ての契約書は「標準型契約」であるとみなされるため、もしも不公正な契約条項のクレームが生じた場合、契約書の作成者が「これは標準型契約ではない(だから不公正な契約条項の規制は受けない)」という証明責任を負う。 Auto & General事件 2023年4月4日、Australian Securities and Investments Commission (ASIC) (豪州証券投資委員会)は、Auto&General Insurance Company Limited(以下、Auto & General)に対し、消費者からの請求を不当に拒否出来るとされる契約条項の無効性について、連邦裁判所に提訴した。当該契約では、「顧客の家屋や家財に何か変化があった場合」、顧客はAuto & Generalに対し、その旨通知する義務を負わせていた。ASICは、この条項について以下のような見解を示した: • 保険契約者の家屋や家財に関し「何か」変化があった場合、Auto & Generalに通知する義務を顧客に課すことは、過剰な負担であり、尚且つ曖昧で非現実的である; • 保険契約者が通知を怠ったという理由だけでAuto & Generalが保険給付請求を拒否または減額できるといった権利は、Insurance Contracts Act 1984に規定されている拒否権よりはるかに広範である; • 保険契約者に対する実際の義務や権利について誤解を招く可能性がある。 したがって、ASICはAustralian Securities and Investments Commission Act 2001(ASIC法)(豪州証券投資委員会法)に基づき、この契約条項が不公正であると主張している。 不公正な契約条項規定に関する最近の法改正 Auto & General事件は、ACLおよびASIC法上の不公正な契約条項規定の範囲を大幅に拡大する最近の法改正に関連したものであり、政府が当規定の執行に焦点を当てていること(ひいては、企業が契約条項を見直す必要性)を示している。 注意すべき主な変更点は、不公正な契約条項禁止の違反に対するASIC法上の民事罰(罰金)の導入、およびACLにおいて規定される最大罰金額の大幅な引き上げである。当規定の違反に対し、今までは原則的に罰金が課されなかったため、ほとんど無力だったという問題の対応であった。これらの罰則は2023年11月10日より適用される。 主な法改正の概要は以下の通りである。 現在(法改正前) 法改正後 不公正な契約条項保護は、小規模企業契約に適用される。すなわち、一方の当事者企業の従業員数が20人未満であり、契約の前払い金が$300,000未満、または12か月を超える契約金が$1,000,000以下の場合に適用される。 ACL上、不公正な契約条項保護は、一方の当事者企業の従業員数が100人未満、または前年度の売上が$10,000,000以下である場合(前払い金額に関係なく)適用される。 ASIC法上、保護規定は前払い金が$5,000,000以下で、一方の当事者企業の従業員数が100人未満であるか、前年度の売上が$10,000,000以下の場合に適用される。 罰金はない。 法人の場合、罰金額は最大で、下記いずれかのうち最も大きい金額のものになりうる: • $50,000,000; • 不公正契約条項により得られたであろう利益額の3倍;または、 • 違反行為を行った期間中の売上高の30%。 個人の場合、最高額$2,500,000までの罰金が課せられる。 裁判所が標準型契約の条項が不公正であると判断した場合、その条項は自動的に無効となる。 当事者が損害を受けた、または受ける可能性が高い場合、裁判所は、契約の全体または一部を無効とすることができる。 裁判所は、次のような命令を下すことができる: ・実際の損失や損害がなくても、損失や損害が生じる可能性がある場合には、契約全体または一部を、無効化あるいは変更し、または執行を拒否すること。 ・規制当局の申し立てにより、過去に不公正と宣言された条項と同じ、または実質的に同じ効果がある条項が、今後の標準型契約の小規模企業契約または消費者契約に含まれないようにすること。 ・規制当局の申し立てにより、過去に不公正と宣言された条項と同じ、または実質的に同じ効果がある条項が損失や損害を与える可能性がある場合、その損害を防止または軽減すること。 法改正の影響 ASICの副委員長、サラ・コート氏は次のように述べている。 「契約条項は、当事者が現実的に遵守できるように、つり合いが取れ、透明でかつ明確である必要がある。契約に基づく当事者の実際の権利と責任が正確に記述されていなければならない。」 この、間もなく実施される不公正な契約条項禁止法の改正に鑑み、問題が生じないよう、現在使用している標準型契約書の専門家によるレビューをお勧めします。 ご質問等ございましたらH & H Lawyersまでお気軽にお問い合わせください。 免責事項:本書の内容は一般的なものであり、法的アドバイスを提供するものではありません。情報は外部の情報源から取得されたものであり、掲載日または将来における情報の正確性、また最新性を保証するものではありません。本書で取り上げた事項に関しては、別途ご自身の状況に即した法的アドバイスを得てください。
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Q:友人と一緒に、カフェを始めようと思っています。気の合う友達同士なので、形式ばった契約書などは必要無いかと思ったのですが、別の知人からは「取り決めを、覚え書き程度にでも、書面で残しておいたほうがいいのでは?」と言われました。どういった書類が必要になるのでしょうか? A:取り決めを書面化することは絶対に必要だと考えます。気の合う友達同士であればなおさらです。例えば、後にビジネスの経営方針につき重大な意見の相違が生じたり、利益の分配に関し合意が得られない場合等、その解決の拠り所となるルール(合意書)が存在しないと、問題の解決がいちじるしく困難になってしまいます。 さて、まずは「友人と一緒にカフェを始める」ということについて、明確にする必要があります。二人で、新規に会社を設立して、会社を通じてのカフェ経営となるのか?あるいは、二人がそれぞれ個人・連帯責任を負う“パートナーシップ”での経営となるのか?あるいは一人が経営者となり、もう一人は従業員という形にしても、「一緒にカフェをやる」ということは可能です。 もしも会社を設立するということであれば、二人はそれぞれ幾ら出資するのか?また、その出資は、“資本金”という形で出すのか、あるいは会社への“貸付”という形で出すのか?「お金を出す」にしても、これを資本金とするか会社への貸付とするかで、権利・リスクは大きく変わってきます。 資本金として出資するのであれば、その出資額に応じて株式が発行されます。通常、会社の総株式数の過半数を超える株主は、(役員の選任を通じ)会社の運営方針の最終決定権を握ることになります。 また、お互いの給料の額及び、カフェで利益が出た場合に、それをどう分配するのか?ということについても決めておくべきです。ただ「出資比率に応じて利益は分配する」という簡単な話ではなく、例えば未来に向けての設備投資のために、利益のうち幾らかは二人で分配せずにビジネス内部に留めておく必要もあるかと思います。なお、お互いの利益分配、幾らをビジネスの運営のためにキープするのか?という点については、往々にして争いの原因となります。 上記とは逆に、もしもカフェの運営が上手くいかず、例えば追加で資金注入が必要となった際の、お互いの責任・義務についても、出資形態や運営形態を決める上で考慮しなくてはいけない点です。 複数で事業を行う個々の形態にはそれぞれの長所・短所があります。あなたたちにとって一番適した形態を選ぶためには弁護士や、会計士にアドバイスも求め、二人でよく相談するところから始めてはいかがでしょうか。